最大のテロ支援国家・アメリカ

           山崎 カヲル

2001.10.20 206


 中南米で続くペンタゴン支援による低強度戦争 


 九月十一日朝、メキシコ空港で帰りの便に乗り込こもうとしていたら、ニューヨークやワシントンへの自爆攻撃で航空機の発着はすべてストップし、三日間ホテル暮らしを余儀なくされた。大部分のメキシコ人は、かなりの数の同胞が世界貿易センターで犠牲になっていることを悼みながらも(その多くが銀行や証券会社の従業員ではなく、ビルの清掃などにあたっていた「違法」滞在者であり、CNNやNHKのニュースには絶対に名前が登場しない人々であることを忘れてはならない)、正直なところ「米国政府はざまあみろ」と思っていることは、私が知っている範囲だけでなく、あれこれの情報からも確かめられる。

 それからいまにいたるまでつづいている「テロはいけない」という大合唱のなかで、なにか途方もない違和感を感じている。

 テロリズム(テロ)というのは、米国国防総省の定義によれば、「しばしば政治的・宗教的あるいはイデオロギー的目標を達成する目的で、政府ないし社会を強制あるいは脅迫するために、個人あるいは財産に対する力あるいは暴力の違法な行使または行使するという威嚇」だそうである。要するに、特定の目的のために人命や財産について行使される違法な暴力ということであろう。

 この定義の特徴のひとつは、主体についての沈黙である。だれがそのような暴力を行使するのかは、そこでは問われていない。つまり、だれであろうと個人や財産に対して違法な暴力を加えて、政治的等の目的を達成しようとすれば、テロリストであり、その行為はテロなのである。

 このことはまず押さえておかなければならない。

 さて、私は八月二八日にメキシコはチアパス州チェナルオ行政区の山奥を、先住民ツォツィル人といっしょに歩いていた。彼ら「ラス・アベハス」(先住民組織のひとつ)は四年間にわたる暴力的追放のあと、白色テロの犠牲になる可能性があるにもかかわらず、村に帰るという決定をし、その第一陣がその日、ショイェップのキャンプ地を出発した。帰路での襲撃の危険があるため、私たち外国人が弾丸よけとして同行したのである。

 ショイェップから北に少しいったところに、アクテアルという村がある。この村では一九九七年十二月に、避難していた「ラス・アベハス」の人々四五名(うち女性二一名、子供十五名)が、襲撃で殺されている。まったく無抵抗な人々を、完全武装の六十名ほどのテロ団が無慈悲に殺した。

 アクテアルは例外ではない。チアパス州では政府軍、警察、テロ団による殺害・レイプ・暴行・略奪は毎日のように行なわれている。特に殺害はテロ組織に委ねられている。彼らは準軍事組織(paramilitares)と呼ばれる。というのは、軍隊によって組織・訓練され、軍隊から武器や資金を与えられて活動しているからである。私と 「ラス・アベハス」の連絡をつけてくれたチアパスのフライ・バルトロメ・デ・ラス・カサス人権センターにいけば、そこには彼らについての膨大なデータベースがある。メキシコの軍隊はテロを指導し資材を提供しているという点で、明らかにテロ支援組織であり、憲法によって三軍の長であるメキシコ大統領は、支援組織の最高責任者にほかならない。

 加えて、メキシコ軍に「対ゲリラ作戦」を教え、彼らを訓練し、武器を与えているのは、米国である。ジョージア州フォート・ベニングに置かれている米州軍学校(School of the Americas)がその訓練センターになっている。したがって、米国もまた、テロ支援国家のなかに入る。

 ラテンアメリカでは現在、政府軍や準軍隊組織による不法な暴力を国家テロと呼んでいる。ペルーのフジモリ元大統領は軍情報部が作った「コリナ」部隊というテロ組織を使って、いくつもの虐殺事件を引き起こした(彼を保護しながら、テロ非難をする日本政府は笑止のかぎりである)。チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、エルサルバドル、グアテマラなどでは、反政府活動の弾圧のために、軍部はほとんど公然と民衆の大量虐殺を行なってきた。準軍隊組織はメキシコだけでなく、コロンビアでも大活躍をしている。国家がテロの主体となることを、先の国防総省の定義は排除していないのだから、国家テロは充分に概念としてなりたつ。

 これらの活動すべては、戦争ならざる戦争(いわゆる低強度戦争)として、米国の軍事ドクトリンの一部となっており、先に触れた米州軍学校で、ラテンアメリカ各国の幹部将校に教え込まれている。アクテアルでの虐殺は、その実践例のひとつにほかならない。

 テロはいけないという主張を、とりあえず認めよう。特に今回の自爆攻撃は戦いの倫理性を逸脱していると思われる。だれがやったにせよ、あの行為はきわめて卑劣である。というのは、なんの声明も出されないでいるので、私たちは手段と目的のあいだの関係を議論することさえできないのだから。

 しかし、テロがすべていけないというのであれば、同じ論理によって裁かれるべき人々がおそろしくたくさんいることも忘れてはならない。チアパスだけに話を限定しても、アクテアルで無慈悲な殺戮を行なった準軍隊組織、彼らを使っているメキシコ軍、そのメキシコ軍を訓練し武器や資金を与えつづけている米国政府や米軍は、テロリストでありテロ支援国家なのである。

 再度強調しておきたいのだが、ラテンアメリカでもっとも多くの犠牲者を生み出しているのは、国家である。そうした国家テロがテロの範疇に入らないとする根拠は、先に触れたようにまったくない。「すべてのテロに反対する」という立場を貫くつもりなら、国家テロを射程に入れてしか発言できないと思う。

 そして少なくともラテンアメリカでは、国家テロを武器・訓練・資金の面で支えているのはアメリカ合衆国である。

 私としては、ブッシュ大統領がいまアフガンに叩き込んでいる爆弾や巡航ミサイルの一部を、ホワイトハウスとペンタゴンにも向けるべきだと思っている。


やまざき かおる/東京経済大学 教員

  トップページへ