焦点 先制攻撃が反テロの教訓と公言したブッシュ政権
    −二〇〇二年次米国防報告−

                               編集部

2002.9.20 217 


 イラク攻撃を訴えるラムズフェルド米国防長官

 「ここで始まった戦争に勝たなければならない」
  いわゆる同時テロから一年目の九月一一日、アメリカのブッシュ大統領は、こう演説した。
 
 テロを撲滅すると称して、アフガニスタンでの戦争を開始し、イスラエルのパレスチナに対する攻撃に火をそそいだブッシュ政権は、イラク・フセイン政権の打倒をめざした戦争を準備している。ブッシュ政権は、ニューヨークの世界貿易センターや国防総省が自爆テロを受けるという、アメリカ国民にとっては衝撃的な事件を利用して、ソ連との冷戦時代の「抑止・封じ込め」から「先制攻撃」へと、世界制覇のための軍事戦略を転換しようとしている。

 政権転覆に核攻撃も辞さず

 この八月一五日、米国防総省は二〇〇二年次国防報告を発表した。ブッシュ政権発足からすすめられてきた新戦略の追求は、同時テロ事件を契機により明確な方向をとり、それがこの報告で公式に表明された。
 
 報告は「新たな安全保障環境」について、「九月一一日の事態が示したのは、二一世紀の安全保障環境が二〇世紀に直面したものとは異なり、より複雑で危険なものであるということだ」「地域的な大国が、米国の利益にとって重要な地域の安定を脅かす能力を開発している」とくに「イラク、イラン、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)は、長距離ミサイルで武装し核兵器や生物・化学兵器の取得をめざすか、入手しつつある」としている。

 そして「新戦略路線」について、「アフガンでの戦争の重要な教訓は、時に先制攻撃が必要だということだ」そのためには「地上軍の投入を含め、事前には何も排除してはならない」と明言し、湾岸戦争での失敗から米軍が開発をすすめてきた地中施設破壊のための新型核兵器の先制使用も辞さないことを示唆している。

 その前提は「米軍は、アメリカと同盟国に敵の意図を押しつけようとする企みを打ち破る能力を維持しなければならない。命令があれば、敵の領土を占領したり政権交代の条件をつくる能力を含む力量を保有しなければならない」というもので、主権国家への軍事的制圧によって、アメリカにとっての「敵性国家」の政権転覆をはかる、という方針を隠していない。

 すでにブッシュ大統領は、六月の陸軍士官学校での演説で、こうした方針を表明し、そこでは世界六〇カ国にあるテロ基地に攻撃をくわえるとものべているが、その当面の標的がイラクのフセイン政権であることは、周知のとおりである。

 本土安全保障省の新設と中国脅威論の復権

 クリントン政権時代から、アメリカの軍事戦略は、いわゆる地域大国の弾道ミサイル・核開発やテロに警戒心をしめしていたが、それは世界的なアメリカの権益や米軍部隊の防衛に重点がおかれていた。

 しかし、ブッシュ政権による同時テロ以後はじめての国防報告は、「アメリカ本土の防衛」を最重要課題として浮上させている。

 ブッシュ大統領は、六月六日のプライム・タイムをねらった演説で、「われわれは、テロリストの計画や能力を次第に知るようになって、二一世紀の新しい脅威に、より効果的に対応できるよう米政府を再編成しなければならないとの結論に達した」と、本土安全保障省の新設を発表した。

 この米政府再編は、第二次大戦直後にトルーマン大統領が、「ソ連の脅威」に対抗するため陸軍、海軍両省を国防総省にまとめて以来、五五年ぶりの大省庁再編で、八省庁の二〇の関連部局に新設機関をくわえ、約一七万人の省を新たに創設するというものである。

 さらにみのがせないのは、今回の国防報告が「アジアにおける安定的な均衡の維持は重要かつ困難な任務である。相当な資源基盤をもつ軍事的な競争者が登場してくる可能性がある」と指摘し、実質的には中国の台頭への警戒心を、あらためて表明していることである。

 七月には、国防総省と議会がブッシュ政権下ではじめての中国報告書を発表したが、国防報告はその評価を踏襲している。

 昨年四月の海南島事件(米偵察機と中国戦闘機の衝突)は、ブッシュ新政権が中国を「戦略的競争相手」と公言するなかでの、米中の軍事的緊張を白日のもとにさらしたが、アメリカはパウエル国務長官などが中国との調整にうごき、ブッシュ外交を「穏健路線」に導いた。

 しかし同時テロ事件を契機に、「反中国」「反イスラム」を旗印として、「アメリカ帝国」の防衛と新世紀の覇権再構築をめざす米政財界のネオ右派勢力は、一気に力を増しているようである。

 クリントン政権下で「極端なタカ派」として米外交の主流になれなかったこの勢力は、ブッシュ・ジュニア政権で、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ポール・ウォルフォウィツ国防副長官などの人材を登用され、同時テロ事件を契機に、その路線が米戦略の前面におしだされているのである。

 六月にブッシュ政権がうちだした、アラファト・パレスチナ暫定自治政府議長退陣をもとめる新和平構想も、テロとの戦争はイスラエル・パレスチナ紛争と不可分だという、ネオ右派勢力の主張が、公式に採用されたものといえる。

 問われる日本の運動

 しかし、「反テロ」と称するアメリカの帝国主義的権益のための戦争の拡大、当面するイラクへの公然たる軍事攻撃に対して、米国内でも「テロの犠牲をブッシュの戦争に利用するな」という声をはじめ、異様なまでの愛国心の鼓吹に抗して、反対の世論がひろがっている。

 過去の歴史的な数々の軍事侵略、謀略、テロをふくむ支配のうえに、冷戦構造崩壊後の市場原理主義のグローバル化による経済的な覇権をおしつけられた世界各国で、アメリカの独善にたいする怒りは、さらに強まっている。

 もとより、ブッシュ政権の「先制攻撃」戦略=戦争拡大路線の背景には、こうした世界支配の動揺、IT(情報技術)と博打的金融操作を駆使してバブル経済を謳歌してきた、アメリカ資本主義そのものの危機がある。

 こうしたなかで、テロ特措法によって、アフガン攻撃のためにインド洋・アラビア海に自衛艦隊を派兵している日本政府は、さらにイラク攻撃へと参加するのだろうか。

 小泉政権が、欧州諸国の動向や国内世論をにらみながら、当面の動揺をきたしたとしても、日本の国益はアメリカの戦争に参加し、そのための国民総動員体制をとることにある−−という安保体制下の対米従属の基本路線は、改憲、有事法制、教育基本法改悪、社会経済構造改革の攻撃として貫徹されている。

 だからこそ、日本のあらゆる社会分野における諸課題のたたかいは、アメリカの新たな世界支配戦略に対する国際的なたたかいとの連帯を自覚する必要があるだろう。


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