海外事情 イラク反戦のうねりで危機に直面する各国首脳
       −英国・オーストラリア・イタリー・スペイン−

                     垣田 章
2003.3.20 223


  シドニーもイラク攻撃反対デモの洪水

 ブッシュ政権のイラク攻撃に反対する声が、全世界を一周する反戦ウエーブとなって沸き起こった。この二月一五日から一六日にかけて、実に世界の六〇ケ国、六〇〇都市で一〇〇〇万人を越える人々が反戦デモに参加したことを日本の各紙も報道している。

 参加者の規模の大きかった都市を拾いあげてみると、ローマ(三〇〇万人)、マドリード(二〇〇万人)、ロンドン(一五〇万人)、バルセロナ(一五〇万人)、パリ(八〇万人)、ニューヨーク(七五万人)、ベルリン(五〇万人)、シドニー(二五万人)、メルボルン(二五万人)などとなっている。

 この反戦のうねりの意味するものを、最新の『週刊ガーディアン』を基に報告してみたい。

 英国の場合

 二月一五日のロンドンでもデモは史上空前の規模となった。警察側は七五万人まで数えて打ち切ってしまったらしい。興奮したロンドン市長のリヴィングストンは、ハイドパークに設けられた演台から「英国の二〇〇〇年史上最大のデモ」と呼んだ。警察打ち切りの約二倍に当る一五〇万人が、ロンドンの目抜きの大通りを埋めつくしたのである。

 このデモを主催したのは「反戦大連合」と「英国ムスリム評議会」で、CND(核兵器廃絶運動)などの四五〇組織が参加した。そして、あらゆる年齢と階層と背景の人々が反戦の叫びをあげたのである。その多様に掲げられたプラカードには、英国流のユーモアに溢れたものもあったようだが、ガーディアン紙が参加者の気持の代弁として引いているのは次のものである。

 「労働党員番号A一二八三六八は戦争に反対する」

 労働党の党首であるブレアはまさに危機的立場に立たされている。彼の支持率は九%にまで下落してしまった。さきの英国議会では、一七〇名の国会議員がイラク攻撃に新たな国連決議を要求したし、一一九名は国連の新決議があっても戦争に反対の態度をとっている。労働党議員は辞職して党の再建を計るべき事態と言うのはグラスゴー選出のギャロウエイ議員である。

 このように事態が推移してくると、「イラクへの軍事介入の究極的な目的は人道主義」と唱え続けているブレア首相の立場は、政治不信という大渦に巻き込まれたものとみてよいであろう。米国と欧州諸国の架け橋となることを自認し、英国のユーロ加盟を目指してきた彼の政治姿勢も、泡ぶくとなって消えかねないのである。

 オーストラリアの場合

 永くつづいた労働党政権から政権を奪取した保守党のジョン・ハワード首相も、反戦のうねりにさらされている。五〇万人がオーストラリアの諸都市でデモに参加したのである。オーストラリアはブッシュの要請に従って、一万名を越える兵員を既に湾岸地域に派遣しているのであるが、反戦の要因にはバリ島のホテル爆破事件もからんでいる。このときはオーストラリア人の死者が多かったのだが、テロの標的となったのは、オーストラリアの米国寄りの姿勢のためという世論が七〇%という調査結果となっている。

 最近の二月三日の世論調査でも、国連の承認なしのイラク攻撃に反対するものが七五%であり、国連の承認ありでも四〇%は反対という数字が出ている。ハワード首相は、デモの参加者はサダム・フセインを利する者と強気のようだが、今後の展開によってはどうなるかわからない。ガーディアン紙はモナシュ大学のオーストラリア政治の権威者ニック・エコノムール氏の発言を引いている。「オーストラリア政府に必要なのは、対イラク戦争の急速な結末である。戦争が二、三週間を越えて続くようになれば、この国では意見の分裂が必ず生じる」

 イタリーの場合

 二月一五日のローマのデモの参加者三〇〇万人は突出している。シルヴィオ・ベルルスコーニ首相は二〇〇一年六月の総選挙での圧倒的勝利を背景に、米国寄りの政策をとってきたわけだが、ここにきて危険な綱渡りを強いられる事態に陥った。最近のイタリーの新聞社による世論調査は、八〇%を越えるイタリー人はイラク攻撃に反対であり、国連の承認があっても反対とする者が七〇%に達することを示している。

 ベルルスコーニ首相はメディアの大立て者であり、産業界でもタイクーン(巨頭)と呼ばれる人物だが、ここにきて世論の強い反撃を受けることになった。ことに彼の中道右派の立場を支持してきたカソリック教徒の反発が強く、総本山ヴァティカンは彼に圧力をかけている。さすが強気の首相も米国支持のトーンを低くしているようだが、米国の攻撃が開始され、米国からイタリーに支持の要請があったときが、ベルルスコーニ首相の正念場になると、ガーディアン紙はみている。

 スペインの場合

 スペインのアズナー首相も強い世論の反発を受けている。マドリードとバルセロナの街頭を、二〇〇万人を越えるデモが埋めつくしたのである。世論調査でもスペイン人の三分の二はイラク攻撃に反対している。首相の率いる保守の国民党は、戦争反対の社会党に支持率でリードされる事態となっている。

 アズナー首相は英国のブレア首相以上にイラク問題で強硬路線をとり続け、常に米国よりの姿勢を国連の場でも鮮明にしてきた。もっともスペイン軍を派遣するところまでの米国支持ではないので、世論の強い反発は国内政治の段階にとどまり、彼の政権瓦解に至る可能性ありというのがガーディアン紙の見解である。


かきた あきら/福岡女学院大学名誉教授

  トップページへ