解決・解消-イラク戦争の先は

    ペーター・ジャコムッツィー

2003.4.20 224 



(・・・)
それならば
もっと手っ取り早く、政府の方が
国民を解散し、
別の国民を選べばよいではないか。

ベルト・ブレヒト
     『解決』 一九五三年


もっと手っ取り早く、
アメリカ政府は世界を解散し、
別の世界を探せばよいではないか。


 ベルト・ブレヒトの一節をちょっと言い換えてみたが、「普通の」人々が世界中で激しい抵抗をしている今、この言葉は極めてアクチュアル(現実的)なものに見えてくる。

 ヨーロッパの観点からすると(そういうものがあるとしての話だが)、現在疑いもなく言えるのは、「国民は戦争に反対している」ということだ。しかし、それぞれの政府や権力者のレベルで見ると、事態は若干違った様相を呈している。

 イギリスとスペインは具体的に自国民に対立する行動を取っているし、イタリアのベルスコーニは、ブッシュ政権との帝国主義的な連帯と、この戦争を断固として非難しているローマ法王との間で、危うい綱渡りをしている。ドイツに関して言えば、当初より戦争をきっぱりと拒否してきたシュレーダー首相が目下支持率上昇というボーナスを得ており、前回の選挙に僅差で敗北したキリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟と自由民主党は、道義にもとるこの戦争に対する国民の怒りが鎮まるまで待とうとしているようだ。そうしてその後は、アメリカへの盲従をまた続けていくことができるだろうと考えているのである。

 要するに、あの多くの抗議運動は、いろいろな思いや不安については多くを語るものであるが、政治的な日常に関しては僅かしか、或いは全く何も示していないのである。ヨーロッパの軍需会社は戦争によって儲ける権利を奪われまいとするだろう、というより奪われるわけにはいかないのだ。

 目下この点で魅力(とビッグビジネスのチャンス)があるのはヨーロッパの正規軍というビジョンだ。まずもってこれが完全に装備され、その軍備が整えられれば、ヨーロッパでも喜んで武力による平和の回復を行うことになろう。

              * * *

 それでは、今抗議行動やデモで示されているものには、なんの意味もないのだろうか。侵略と言った方がふさわしいこの戦争が終われば、人々はまたさっさと他のことへ移っていくのだろうか。

 もちろんそうではない。第一に、「グローバルな反グローバル化」とも呼べる意識が強まったのだ。「ヨーロッパの」、或いは他の大陸の個別的な解決には未来があり得ないということ。我々が既にこのグローバル化された世界のただ中にあるのを認めなければならないということ。従って、民族国家は、いやそれどころか、まだ本格的にはできあがっていないEU(ヨーロッパ連合)のような産物でさえも、何らかの進展に影響を及ぼすには狭すぎるものであるだろうということ。そうしたことが分かったのである。

 そして第二に、カトリックの法王が、意外とも言えるほどはっきりとした態度でこの戦争に反対したことで、これまで白人=キリスト教=善という単純な等式によって、心にやましさを感じずに過去五〇年の戦争を無視してきた総てのヨーロッパ人の確信が揺らいでしまったということがある。

 世界は恐れている。史上初めて、自らの民主主義国家に対する恐れである。民主主義の名において、あまりに長い間、あまりに多くの嘘が騙られ、あまりに多くの偽りの情報が与えられてきた為、今日いわゆる先進国において政府が国民に支持されることはもはやあり得ないのである。

              * * *

 ヨーロッパがこの戦争によって直接的な影響を受けないとしたら、その場合は間接的にではあるが、看過し得ない結果が齎されることだろう。カードが新たに切られる。しかし見通しは必ずしもバラ色ではないのだ。

 ドイツでは既に、盲目的な反米主義という点で、緑の党とバイエルンのキリスト教社会同盟との奇妙な連合ができあがっている。この関連で言えば、同じように盲目的で愚かしい、シオニズムの世界的陰謀の幻が蘇っている。例えばオットー・ハプスブルクは次のように言う。「アメリカの内政を見ると、それは二つに分裂している。一方には国防総省があり、その重要ポストはユダヤ人によって占められている。ペンタゴンは今やユダヤ人の機関である。他方の国務省には、コリン・パウエル、或いは特にコンドリーザ・ライスのような黒人がいる」
(http://www.klick-nach-rechts.de/gegen-rechts/2002/11/hapsburg.htm )。

 ヨーロッパのイラク侵略支持者達は沈黙している。今のところは。しかしそこから、彼等がとるに足りないものだという結論を出すとしたら、それは大きな誤りである。軍需産業が世界中で、平和の名のもとに武器を生産することが許されている限り、そうした企業は又、武器を売って儲けることも考えるだろう。戦争は商売であり、金にはモラルなどない。西洋の民主主義信奉者のこういう単純な決まり文句に対して、突然抗議の声が上がってきたようである。そしてそれにより体制全体を支える支柱の一つが揺らぎ始めたのである。 

生徒達がデモをした
ゲルゼンキルヒェンで
   「平和」
アテネで
ハノーファーで
   「石油の為に血を流すな」


オーストリア国籍・東京大学教員/翻訳=高橋憲子/文責=編集部

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